「2回の提供で気づいたのは、56万人のドナー登録者全員がヒーローということ」友人をきっかけにドナー登録した野間さんが思いを語ってくれました。

PROFILE
野間 耕平(のま こうへい)さん
2017年 1回目の骨髄提供
2019年 2回目の骨髄提供
ラジオ局勤務
1度目の適合通知は登録してすぐに届きました。こんなに早く来るとは思っていなかったのですが、望むところだったので嬉しかったです。残念ながらその時は提供まで進みませんでしたが、数か月後に2度目の適合通知が届き、やっと友人の仇が討てると思いました。平日に行われる検査などは、休日出勤した分の振替休日で調整することができました。
家族の同意は連れ合いにお願いしました。もともとドナー登録のきっかけになった彼は共通の友人でもあったので、ドナー登録には連れ合いと一緒に行っています。そのため提供にも理解があり「まぁやってきなさい」と送り出してくれました。
『銀河鉄道の夜』の主人公・ジョバンニの言葉で「ほんとうにみんなの幸いのためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。」というのがあります。その言葉を胸に、私は骨髄提供に臨みました。
入院は初めてで、骨髄採取の手術についてリスクなどを説明されましたが、不安や恐怖よりも未知なる体験へのわくわく感のほうが大きかったです。入院する病室はゴージャスでしたし、普段は仕事が忙しいので「この機会に本が読めて良かった」という前向きな感じでした。
全身麻酔なので、残念ながら手術中の記憶はありません。手術室に入り、麻酔を打たれて、いつ眠くなるのかな、来るかな、来るかなって思っていたら、次の瞬間には名前を呼ばれて「終わりましたよ」と伝えられました。「眠くなる」という感覚がないまま瞬時に意識が途切れたんだなと思いました。麻酔から覚めたとき、看護師さんにやたらべらべらと喋りかけていたのを覚えています。麻酔の影響でハイになっていたのだと思います。
術後に医師から「いまの痛みは10段階でどれぐらい?」と聞かれ「2」と答えました。この程度だったら歯医者の方が痛いと思いましたし、点滴のチューブを外すときの方が痛いくらいでした。
採取のための入院は3泊4日でしたが、実は仕事は2日しか休みませんでした。1日目は午前中出勤して午後から入院。4日目に退院した後はそのまま午後から出勤し、夕方の生放送に間に合わせるためにすぐにインタビューして編集して、と慌ただしく働きました。そんな具合だったので、私が骨髄提供をしたことは、職場の同僚も一部の人しか知らないという状況でした。
1回目の提供から2年後に、また適合通知が届きました。断るつもりは当然なく「受けましょう」という気持ちでした。骨髄採取と末梢血幹細胞採取の両方について説明を受け、患者さんの都合に合わせますとお伝えしました。結果2回目も骨髄採取になりましたが、末梢血幹細胞採取も経験してみたかったというのが正直なところです。
2回目の手術は、1回目とは別の病院で、環境も全然違いました。手術後は、採取部位の痛みよりも、手術中にずっと同じ体勢だったからか、五十肩の痛みの方がきつかったです。採取の後の病室で、ラジオから菅田将暉さんの歌う『ロングホープ・フィリア』という曲が流れてきました。歌詞が、骨髄提供した自分のこと、そして移植を受けた患者さんのことを歌っていると感じ、心に沁みました。今でもこの曲を聴くと涙が出ます。
2回の提供を経験した私の率直な感想は「この程度の手術なら毎年だってできるな」ということです。今の骨髄バンクの決まりでは造血幹細胞の提供は2回までというルールがありますが、それで助かる人がいるのなら3回でも4回でも、いくらでも提供したいという気持ちです。
2回の骨髄提供を経験した私から、みなさんに強く伝えたいことが2つあります。
1つ目は、【骨髄採取の手術の内容が全然知られていない】ということです。内容がわからないまま、「手術」という言葉が一人歩きして、みなさん不安に陥っているのではないでしょうか。実際には、頑丈な骨盤に注射針を刺してゆっくり骨髄液を抜くというもので、基本的にはメスも使わないし縫合もない手術です。「適合通知が来たけど親に反対された」とか、「全身麻酔の手術なんて大丈夫なのかな?」と不安になるという声も聞きます。そんな中で実際に体験した私の話を聞いて、「その程度の手術だったら、私全然いけます」という人が増えてほしいです。
2つ目は、【ドナー登録者はみんながヒーロー】ということです。私は1回提供しただけでも、みんなから「素晴らしいですね」って言われました。2回目の提供をしたら、さらにヒーローになれると思っていました。でも最近、考えが変わりました。現在ドナー登録している56万人が手をつないで大きな網を作っていて、そのどこかに患者さんが受け止められた、そこがたまたま私だったというだけのことです。提供した私がすごいわけではありません。私はただ言われるままに病院へ行き、マグロのように横たわりお医者さんに採取をしてもらっただけで、特別なことは何もしていません。もしそれをヒーローと呼ぶのなら、ドナー登録をしているみんながヒーローと呼ばれるべきです。誰が骨髄提供をしたかが重要なのではなく、56万人で手を広げたからこそ救える命がある、そのことが重要なのです。骨髄提供により1人の命が救われたなら、それは56万人全員の勝利なのです。私たちみんなが患者さんの希望なのだと思います。だから、提供したことについてもちろん喜びもありますが、この思いをドナー登録者全員で共有したいです。ドナー登録者のうち、実際に骨髄提供に進むのは3%ほどで、大半は一度も提供することなく卒業します。でも、それが無意味だったと思わないでほしいです。その間中、あなたは骨髄移植を必要とする患者の可能性であり、希望であり続けたのですから。どうかドナー登録したことを誇ってください。