東京大学医学部付属病院、東京都立駒込病院の血液内科に入院していた患者さんを中心に発足した集まり。今回はドナーズネットとの対談というお話を伺いました。
2000年4月から活動を始め、メンバーは10〜50代の約30名。患者同士の交流、情報交換を目的に3か月に1度のペースで会合を設けている。 出席者:大橋晃太さん、橋本寛さん、棚谷素子さん(文中では、大橋、橋本、棚谷と表記させていただきました)
PROFILE
「ももの木」メンバーの皆さん
大橋 今日の3人のなかでは、橋本君が唯一の骨髄移植経験者なんです。話も面白いから、彼から始めましょうか?
橋本 面白いって、そのときは大変だったんだよ!(一同笑)僕は中学、高校とずっと陸上の長距離選手でした。実業団にもスカウトされて入り、オリンピックを目指してマラソンをやっていたんです。でも1994年の夏あたりから体調が悪くなって、その頃、十和田・八幡平駅伝という大会に出場したんですが、途中であまりの具合の悪さに意識が無くなり、気がついたらゲーゲー吐いてたんです。その大会は区間記録を更新する勢いだったんですが、最後の3kmぐらいは意識がなかったんですね。とにかくタスキは渡したらしいのでホッとしたのだけ覚えてます。それからもずっと体調が悪くて走れないので、練習も休みがちになってしまって。でも、スポーツマンだし病気になるなんて考えてなかった。周りも僕が怠けてると思ってたみたいで......。
大橋 それ、あるよね。最初の頃は普通と変わらないから。僕も発病したとき、ちょうど研究室が忙しい時期で、先生から「サボるな」って怒られた(笑)。
橋本 そうでしょ?結局、コーチに泣いて訴えてやっとわかってもらった。で、病院で検査を受けたら即刻入院しろと。でも、走れなくなると困るんで渋っていたら、そのときのお医者さんから「君は、大津波が目の前に迫ってるときに、明日、何食べようかとか悠長に考えていられるかね」と言われたんですよね。病名はまだ聞いてなかったんですけど、「俺はよっぽどヤバイのか!?」って思いましたよ。でも入院すると「盲腸と同じような病気、1度治療すれば治るよ」と言われて。実際に治療を始めると、髪は抜けるし、気持ちは言いようがないくらい悪くなるし、しかも治療は終わったのに「再発を防ぐために、もう1度徹底的に叩きましょう!」なんて言われるし。どう考えても盲腸と同じとは考えられない(笑)。それで、自分でいろいろ調べて白血病じゃないかって先生に聞いたら「その通りだね」とあっさり認められてしまいました。
大橋 先生方は、はぐらかすのうまいんだよね、のらりくらりと(笑)。
橋本 僕は一卵性双生児なので、弟から骨髄を貰えたんで。最初から骨髄液のあてがあって、先生たちも橋本は大丈夫だと思っていたみたい。
ドナーズ 今はそれぞれ社会復帰なさっているそうですが、大橋さん、棚谷さんにも病名をお伺いしてもいいですか?
大橋 僕は大学院の修士課程1年の冬に、たまたま骨髄異形成症候群だってことが分かって、そのまま半年間、東大病院に入院しました。その間に骨髄移植をする予定もあったんですが、幸い何度か試みた化学療法が功を奏して、今は元気にやってます。大学では博士過程で、ドナーからの骨髄採取装置の開発をしてます。
棚谷 私は秘書として働いてますが、1999年に悪性リンパ腫で入院しました。リンパ腫は、病状が進んで骨髄にも異常が現れると骨髄移植が必要になるんですけど、私はまだそこまでではなかったので。
橋本 僕は退院後、元の会社をやめて、今は看護士になるための専門学校に通っています。
ドナーズ 「ももの木」の普段の活動は?
大橋 患者会というと病気や治療法の勉強会など真面目な活動をしているところも多いんですが、僕らの会はメンバーで何かをやるという大きな目標はないというのが特徴ですね。
橋本 病気のことを愚痴る場所っていうか、ほとんど飲み会?(笑)。
大橋 飲みながらお互いの近況を話したり、情報交換をしたりするという......。真面目な活動もあるんですよ。たとえば血液疾患は入院期間が長いので気晴らしになるようなイベントを病棟内でやろうという。今年の1月には東大病院(東京大学医学部付属病院)で、東大の学生サークルに協力してもらって大道芸のイベントをやりました。
棚谷 やりたい人たちがやる、という形で。
大橋 メンバー全員参加となると、気楽に参加できなくなる人もいると思うから。
橋本 同じ病院にいても、退院しちゃうとみんなバラバラになっちゃうから。先に退院したほうは、残っている人たちがどうしているかなと思うし。
大橋 病気は違っても、同じ血液の病気を経験したもの同士が気がねなく話せる場所って感じですね。
ドナーズ 骨髄移植のことも話し合ったりするんですか?
棚谷 私も今は大丈夫なんですけど、血液の病気だと、いずれそういう可能性が出てくることもありますね。
大橋 僕も今は調子がいいんで、すぐに移植が必要というわけじゃないんですが、完全に適合するドナーの人が見つかったらするかもしれない。会合では、移植を経験した人の話を聞くことも多いです。実際、橋本君の時はどうだった?
橋本 なんかね、気のせいかも知れないけど、骨髄液が入ってきた途端に元気になるというか。
大橋 へぇぇぇ!
橋本 僕の場合はだけど、それまでもう気持ち悪くてしょうがなかったのが、すぅーっと良くなった感じがしたんだよね。
大橋 そういう話は心強いなぁ。
ドナーズ ドナー登録に関して患者さんの立場からの意見は?
橋本 僕の場合は肉親から提供というケースですけど、骨髄バンクを通じてのドナー探しだと、見つかっても提供してもらえるか心配っていうのがまずあるよね。
大橋 そうだね。僕の場合で言うと、適合者が3人も見つかったときには、それだけで心の支えになった。つらい時期だったから。けど、3人のうち2人がコーディネートが終了になって、残る1人の人も終了になったときは、やっぱり落ち込んだ。そのときは「みんな適当に登録して、いざとなったら逃げちゃうんだ」とか「骨髄バンクもちゃんとやってるのか」とか、名前も知らない人たちだから、どうしても悪者に仕立て上げたくなっちゃうんだよね。でも、ドナーを経験した人の話を聞く機会があって、骨髄提供のために仕事を休んだりすることがいかに大変なことか分かったから、そう悪く考えちゃいけないなと思った。
橋本 入院中、同じ病室の友だちで、ドナーが見つかったんだけど提供までいかなかった人がいたけど、相当ショックだったみたい。その人は、僕が移植を終えて退院した直後、病状が急変して亡くなったんですけど、もし提供が受けられていたら、どうだったんだろうって思う。だから知り合いから「登録を考えているんだけど」って相談されるときはまず、「よく考えて、家族の人ともよく話し合って」と言っちゃうね。でもあんまり「よく考えて」って言っちゃうと、登録が増えないのかなとも思うし。提供を受ける立場としては、そこらへんが難しい。みんな友達や知り合いに登録を勧めたことある?
棚谷 勧めるとまではいかないけど、骨髄バンクや骨髄移植について話したことならある。骨髄バンクのパンフレットを取り寄せて配ったり。でも、相手や話す場所をよっぽど考えてやらないと難しいですね。まず理解してもらえないというか。私自身、病気をする前から骨髄移植やドナーのことは知ってはいたけど、まさか自分の身に降りかかるとはいなかったから無理もないとは思うんだけど。
大橋 僕は「お前に適合するかどうか知りたいから登録する」って言ってくれた友だちがいたんだけど「もし他の人と適合したら、提供する?」って聞いたら「しない」って言われたので、「だったら登録は止めてくれ」って言ったら、「なんでそんなに冷めてんだよ!」って逆に怒られてしまった(笑)。
橋本 肉親や知っている人への提供だったら、誰でも真剣になってくれるんだろうけど、見ず知らずの他人に提供するとなると......。
棚谷 私は、登録のことはまず置いておいて、骨髄移植をしないと死んでしまう人がいるってことを知ってほしいという気持ちで話してる。認識があれば、そのときすぐに登録しなくても、やっぱり違ってくるんじゃないかと思うから。
橋本 それも社会的に認知されてきたら違うよね。ドナーの特別休暇とかを設けている会社なんて、まだほんの一部でしょ。肉親に提供するのでも、会社で「どういう理由で1週間も休むのか、皆の前で説明しろ」って上司から言われたって話も聞いたことがある。世間的に提供しやすい態勢になれば、断わられるってことも何%かは確実に減るよね。
棚谷 そうそう。登録そのものはすごく簡単だけど、その前に骨髄移植が必要な病気のことや移植そのもののことをよく知ってもらうのが大事。待っている患者としては、登録するなら提供のことまできちんと考えていてほしいと思うから。
※お詫び:インタビューの文中に「ドナーさんに断られた」という表現がございました。患者さんには主治医を通じてコーディネート状況をお知らせしますが、終了になった場合でも理由は一切お教えしていません。ご本人の了承を得て、その部分は削除させていただきました。ドナーズネット読者の皆さま、関係者の皆さまにご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。