若くして白血病で亡くなられたお父様と同じ年齢を迎え、2018年度ACジャパン骨髄バンク支援キャンペーンCM出演となりました。
PROFILE
中川翔子さん
骨髄バンクの一番下の登録年齢は18歳ですよね?すごく後悔していることがあって。父が病気になったのは、私が8歳から9歳の頃です。思い出といえば、家に父が帰ってきてくれたり、幼稚園の運動会やお遊戯の参観日に来てくれたり、誕生日にみんなで一緒に過ごしたり、旅行に行ったり、断片的ですがいろいろある中で、突然白血病になってしまった。死んじゃうかもしれない病気で、骨髄移植をしないと治らない病気だと、しかもドナーと合わないと移植ができないということも祖母や母から聞いて、なのに「怖い、痛いから怖い」と騒いでいたことを覚えています。もしかしたら親子で型が合っていたかもしれないと、ふと思って怖くなることがあります。
母は必死で働きながら、あまり涙を見せないようにしていました。祖父や祖母も憔悴して。私が小さいので、父の髪の毛が抜けている姿をあまり見せないようにしていたようです。入院中は面会回数も少なくて、時が経ってから、ああすればよかった、こうすればよかったと思ってしまうことが多かったですね。
父が一度退院できて家に帰ってきたとき、絵本を必死で描いていたことを覚えています。イメージはいつもにこにこして穏やかなイメージの父だったんですが、すごく一生懸命にベッドの上で描いていました。久しぶりに会った私が照れて、なぞのキノコダンスをしながら部屋に入っていったら、「何をやってるんだ」と言われて。「どうして絵描いてるの?」と聞いたら、「絵は残るからね。いいでしょう、絵本描いてるんだよ」と読み聞かせてくれました。なんでそんなにあわてて描いてるんだろうとしか、当時はわかっていなくて。「そうか、生きた証を残したかったんだ」と、だんだんあとになってわかってきました。
「未知の記憶」という絵本です。自費出版で、のちに復刻版が出ました。
父は絵をよく描いていました。夕暮れの空の絵だったり、猫の絵だったり。その姿が印象的でよく覚えています。それを見て、私も絵を描くのが好きになったというのはとても大きいですね。猫もかわいがっていました。
直接父と話せていたことは少ないですが、思春期の頃は、母を悲しませているとしたら、父がいないせいなんじゃないかと、勝手に反抗してこじらせていました。父と同じ職業には就かないし、関係ないと思っていました。でも結局夢をもってデビューしたのが父と同じ芸能界で。性格的にシャイだったので信じられなかったです。
この世界で形になっていったのが、歌うことと絵を描くこと、猫のこと。教えてもらったわけではなかったのに、完全に父の足跡を追っているかのようでした。
初めてのコンサートの場所も、父が歌っていた渋谷公会堂でした。いないけれど存在がすごく感じられることがたくさんあって。いまだにどこに行っても「お父さんと一緒に仕事をしてたんです」と声をかけてもらうことが多くて、共演者やスタッフの皆さんの優しい言葉にハッとさせられます。
父の年齢を超えても、まだそういう不思議なご縁がたくさんあって。趣味で化石を集めてみようかなとパッと思いついたら、父がすでにアンモナイトを集めていたのがそのまま残っていたとか。歌をうたったり、絵を描いたり、猫と一緒にいる中で、もし生きていたらこういうのも好きだったんだろうなあと思ったりします。
こうした人との見えない縁を感じる仕事も、ここ10年以上の中でたくさんあって、父と同じ年齢になった今、仕事も生きることもすごく楽しくなりました。やっと慣れてきたところで、いろんな夢が実現したり、また増えてきたりしました。父も、もっと生きたかっただろうなとすごく思います。
父の曲をライブでカバーしたりしましたが、何か言えることできることは何だろうかと思っていました。今回のキャンペーンCMのオファーが誰かの幸せや命に、また未来が変わるきっかけになるとしたら、父と私のいろんな意味での集大成というタイミングになると驚きました。
このCMは偶然どころか、父が連れてきてくれたような気がしました。ずっともやもやしていたこと-もし私がドナーになっていたら助けられたのかなと思っていたけど、今後誰かの未来に何か少しでもできることがあったとしたら、間接的な形で、できることがあると気づくきっかけになったので、ありがたいなと思っています。
撮影中は不思議な気持ちでした。遠い未来と考えていた32歳は、がむしゃらに生きていたらあっという間で、父の年齢と並んでしまった年はすごく大きなターニングポイントであり、不思議な縁で、これも意味があったんだろうなと思います。
4月から始まった新しいドラマは、まるであてがきされたような役で、30代女子4人のお話です(NHK総合・金曜22時「デージー・ラック」)。私の演じる讃岐ミチルは、カバン職人のちょっとこじらせ女子という役で、自分でもすごく共感できることが多くて楽しいです。ほかの共演の3人ともプライベートで遊べるほど仲良しになりました。
プライベートでは、捨て猫を拾って、新居で飼い始めました。この猫が招き猫で、いろんな人が集まるようになったんです。周りと壁がなくなったように感じます。人としゃべるのが怖くなくなりました。もともと人を信じてなかったんですよ。「30代からが面白いよ」といろんな人から聞かされましたが、心の壁がとれたのかもしれません。